産業機器のEMIフィルタは、特定したポートと結合経路に合わせて設計します。パワーインダクタ、コモンモードチョーク、DCリンクリアクトル、モータ出力フィルタは役割が異なり、一つのインダクタンス・電流範囲で選べません。本稿は仮想的な制御盤内24 V電源を例に、DC入力の検討を扱います。商用電源、モータ出力、絶縁システムや承認済み製品の仕様ではありません。
発生源、経路、影響を受ける回路を整理する
コンバータなどのスイッチング源、対象の電源・信号ポート、ケーブルと筐体、動作状態、再現可能な症状を記録します。電源線とリターン間の差動電圧と、別の帰路を流れる共通モード電流を区別してください。一点のスペクトルピークだけではモードは決まりません。
TI AN-2162はSNVA489C、2013年4月改訂で、ノイズ経路、伝導EMI測定、フィルタ設計を説明しています。掲載例は方法の参考であり、その測定値や当時の規格説明を、自社機器の結果や現行の適合要求として使うものではありません。
比較できる測定条件をそろえる
| 保存する条件 | 意味 | 避けたい結論 |
|---|---|---|
| ポート、ケーブル、リターン、筐体接続 | 結合と測定の経路を定義する | ケーブルの問題はすべて共通モードである |
| 負荷、入力電圧、動作モード、周波数 | 比較する動作点を定義する | 軽負荷一点で全範囲を代表できる |
| プローブ・受信機、帯域、検波、治具 | スペクトルと波形を比較できるようにする | アナライザのピークだけで正式に合格した |
| 完全な品番、実効L、DCR、温度 | ノイズ変化と電気・熱特性を対応させる | ノイズが減れば温度と安定性も問題ない |
基準状態と変更後で、ほかの条件をできるだけそろえます。特定した共通モード経路にはチョーク、電源・リターン間の経路には差動フィルタを検討します。漏れや寄生結合でモード間の影響が生じるため、変更後は両モードと回路機能を再確認します。
回路を定義して挿入損失を導く
以下は実測ではない独立した単一周波数の計算例です。理想テブナン電圧源V_sに実数の電源抵抗R_sと負荷R_Lを接続し、その間へ直列インピーダンスZ_fだけを追加します。H_0とH_fは追加前後の負荷電圧/電源電圧です。
1 MHzでZ_f = j60 Ωと仮定します。部品仕様ではない仮定値です。抵抗終端の違いによって次の結果になります。
H_0 = R_L / (R_s + R_L)
H_f = R_L / (R_s + R_L + Z_f)
IL = 20 log10 |H_0 / H_f|
= 20 log10 |(R_s + R_L + Z_f) / (R_s + R_L)|
R_s = R_L = 50 Ω: IL ≈ 1.335 dB
R_s = R_L = 5 Ω: IL ≈ 15.682 dB
同じ直列インピーダンスでも、終端が違えば電圧挿入損失は変わります。式は複素数の絶対値を使い、負荷を省略したりZを実数として扱ったりすると別の回路になります。共通モードの四ポートモデルでも、実装後の伝導・放射エミッション予測でもありません。実フィルタでは並列容量、損失、寄生成分と測定インピーダンスを含めます。
入力LCの共振とコンバータの相互作用を確認する
LCを追加すると高周波ノイズを抑えられる一方、インピーダンスのピークを作る場合があります。TIの入力フィルタ設計解説、SNVA538の「Undamped L-C Filter」と続く入力インピーダンスの説明は、共振付近の増幅と制御ループへの影響を扱っています。
別の理想例として、評価条件での実効値を次のように仮定します。
L_eff = 10 µH; C_eff = 4.7 µF
f_0 = 1 / (2π√(L_eff × C_eff)) ≈ 23.2 kHz
得られるのは共振周波数であり、安定性や適合の判定ではありません。関連周波数と動作状態でフィルタ出力インピーダンスとコンバータ入力インピーダンスを評価し、減衰、寄生成分、起動、負荷過渡をモデルまたは実測で確認します。周波数一つではダンピング抵抗・容量は決まらず、大きいインダクタが常に良いわけでもありません。
実際のバイアス下のLと実効容量を使います。Coilcraftの電流定格解説は飽和と温度上昇を区別しています。対象メーカーのIsat、Irms、温度条件を確認し、共通モード部品の温度上昇電流を差動インダクタの飽和限界と読み替えないでください。損失と温度は対象基板で検証します。
最終判断の前に規格の範囲を確認する
IEC 61000-6-2:2016とIEC 61000-6-4:2018の公式公開概要は、対応する専用の製品・製品群規格がない場合に用いる、産業環境向けの一般イミュニティ規格と一般エミッション規格を説明しています。産業用途というだけで、列挙した規格をすべて適用できるわけではありません。
本稿で確認したのは公開概要であり、有料の規格全文ではありません。製品に適用する規則、版、ポート、試験レベル、構成、機能判定基準はEMC専門家によるレビューが必要です。ここでは共通の周波数範囲、厳しさ、適合判断を定めません。
採用前には、実際のケーブル、筐体、接地、必要な動作状態で組立品を評価します。エミッション・イミュニティだけでなく電気機能、温度、入力安定性も確認します。フィルタの交換だけで、軸受保護、力率改善、寿命延長は証明できません。
モードの判別はコモンモードチョーク解説、予備計算はインダクタ電流チェックを参照してください。
参考資料と改訂内容
AN-2162の4、4.4、6節はフィルタ計画、ダンピング、LISNの背景資料です。SNVA538のPDF2~4ページは理想LC応答と電源との相互作用を説明し、本文にはNational Semiconductorの2010年著作権表示があります。電流定格説明とIEC概要の利用範囲は前述のとおりです。実験室試験、認証、顧客承認を実施したとは主張していません。
2026-10-28改訂:根拠のない材料・電流範囲、一律の試験帯域、適合保証を削除し、特定回路の挿入損失と共振・安定性の確認を追加しました。元URLと公開日は記録に保持します。AIによる編集自己点検のみで、独立した母語話者の技術レビューと製品別EMC承認は未実施です。




